「もう、この会社を辞めたい」。先月、開店前の薄暗い売場で、僕は本気でそう思いました。20年勤めた販売の仕事です。その朝はやけに体が重くて、レジの点検をしながら、頭の中を「退職」の二文字がよぎりました。
でも、その日も結局、辞めませんでした。退職届を出すかわりに、夜、書斎でやったことがあります。お金の棚卸しです。家計簿アプリを開いて、ノートに数字を4つ書き出しただけ。それなのに、朝あれだけ重かった「辞めたい」が、不思議と静かになりました。
僕は40代、販売職20年、AI副業を始めて3ヶ月ちょっと。副業の収入は、いまだに0円です。だから稼いだ自慢はできません。今日は、勢いで辞める前に立ち止まれた、その「お金の棚卸し」の話を、正直に書きます。同じように「辞めたいけど、どうしたらいいか分からない」夜を過ごしている人に、少しでも届けばと思います。
なぜ、急に「辞めたい」と思ったのか
きっかけは、これといってひとつではありませんでした。強いて言えば、慢性的な疲れです。20年同じ仕事をしていると、慣れているぶん楽な日もあれば、慣れているからこそ「この先もずっとこれか」と先が見えてしんどい日もあります。あの朝は、後者でした。
正直に言うと、AI副業を始めてから、こういう波が少し増えた気がします。夜にClaude Codeを触って、自分の手で小さなツールが動いた瞬間の高揚を知ってしまうと、翌朝の売場が前より灰色に見える。別の世界をのぞいてしまったぶん、本業との温度差がこたえる。皮肉な話ですが、副業が楽しいほど、本業を辞めたくなる瞬間が来るんだな、と自分でも驚きました。
ただ、僕は過去に副業で3回挫折しています。勢いで走り出して、勢いのまま転ぶ感覚は、何度も味わってきました。だから「辞めたい」と思った瞬間ほど、いったん手を止めるクセだけはついていました。その夜やったのが、棚卸しだったんです。
退職届を出す前に、まず数字を「棚卸し」した
販売の仕事では、棚卸しを年に何度かやります。在庫を全部数えて、伝票上の数字と、実際に棚にある数を突き合わせる作業です。地味で時間もかかりますが、やると「思ったより多い/少ない」が、はっきり目の前に出てくる。見ないふりをしていた数字と、向き合わされる作業です。
「辞めたい」という気持ちも、これと似ているな、と思いました。頭の中だけでぐるぐる回していると、不安も期待も、実際より大きく膨らんでいく。「辞めたら食べていけないかも」も「辞めたら自由になれるかも」も、どちらも頭の中だと巨大に見えるんです。
だから、紙に書き出すことにしました。気持ちの整理は苦手でも、数字を数えるのは販売職の得意分野です。その夜に書き出したのは、たった4つの数字でした。
僕が書き出した4つの数字
順番に書いていきます。家計簿アプリと通帳を見ながら、書斎のノートに殴り書きしただけの、きれいでもなんでもない数字です。
1つ目。ひと月の生活費。うちは夫婦二人、子どもはいません。賃貸マンションの家賃、食費、水道光熱費、スマホ代、保険、たまの外食まで全部ざっくり足すと、ひと月およそ23万円でした。なんとなく「25万くらいかな」と思っていたので、思ったより少し低い。ここは小さな発見でした。
2つ目。すぐ動かせる貯金が、生活費の何ヶ月分あるか。定期や使えないお金は除いて、いますぐ下ろせるお金を生活費23万で割ってみました。だいたい8ヶ月分。仮に明日から収入がゼロになっても、8ヶ月は今の暮らしが続けられる、ということです。これは思っていたより、心強い数字でした。
3つ目。本業の手取り。僕の手取りは、月でだいたい28万円です。辞めれば、これが来月から消えます。当たり前のことなんですが、いざ「消える額」として書き出すと、ずしっときました。妻もパートで働いてくれていますが、僕のぶんが丸ごと無くなる重みは、数字にして初めて体に入ってきます。
4つ目。副業の現在地。これが一番、目をそらしたかった数字です。AI副業を始めて3ヶ月ちょっと、収益は0円。それどころか、Claude Maxのサブスク代として、毎月18,000円が僕の小遣いから出ていっています。入ってくるお金ゼロ、出ていくお金は毎月18,000円。これが、僕の副業の正味の数字でした。
4つを並べて見えた、ひとつの結論
4つの数字をノートに並べて、しばらく眺めました。缶コーヒーでも開けようかと思ったけど、その気にもならず、ただ数字を見ていた。そうして見えてきたのは、ずいぶんシンプルな現実でした。
もし今ここで辞めたら、貯金8ヶ月分で食いつないでいる間に、副業を「ひと月23万円」まで育てないといけない。生活費を稼げるところまで、です。でも、3ヶ月やって0円の今の僕に、残り数ヶ月でそれができるか。冷静に考えて、答えは「無理」でした。
つまり、僕の出した結論はこうです。今は、辞めない。
これは「怖いから逃げた」のとは、少し違う感覚でした。気持ちで決めたんじゃなく、数字が決めてくれた。だから妙に納得感がありました。そして面白いことに、この結論が出た瞬間、朝あれだけ重かった「辞めたい」が、すっと軽くなったんです。
たぶん理由は、ゴールの位置が変わったからです。朝の僕の「辞めたい」は、「今すぐ辞めたい」でした。でも棚卸しのあとは、「いつか、ちゃんと準備が整ったら辞める」に変わった。「今すぐ」が「いつか」になっただけで、人はこんなに楽になれるのかと、自分でも意外でした。
「辞めたい」と思うこと自体は、悪くない
誤解されたくないので書いておくと、僕は「辞めたいと思うな」と言いたいわけではありません。むしろ逆です。「辞めたい」は、自分が今の働き方に何か無理をしているという、大事なセンサーだと思っています。それを「甘えだ」と無理やり押し込めると、いつか別の形で壊れます。
だから僕は、その気持ちを否定するのではなく、棚卸しというやり方で受け止めることにしました。実は、あの夜以来、お金の棚卸しは月に1回のペースで続けています。家計簿アプリを眺めて、4つの数字を更新するだけなので、10分もかかりません。
数字が変われば、結論も変わります。もし副業が月5万、月10万と育っていけば、「辞める」は妄想ではなく、現実の選択肢として近づいてくる。そのときが来たら、僕はたぶん、今度こそ本気で辞めることを考えると思います。棚卸しは、その日を測るためのものさしでもあるんです。
それでも、いつか辞めるために、今やっていること
「いつか辞める」を絵に描いた餅で終わらせないために、今やっていることは、結局シンプルです。本業を続けながら、副業を細く長く育てる。これだけです。0円の数字を、まずは「最初の数千円」に変える。その積み重ねでしか、4つ目の数字は動きません。
もしあなたが「自分も副業で備えたい」と思っているなら、僕はブログから始めるのをすすめます。元手がほとんどかからず、本業を続けたまま夜の時間でコツコツ積める。これから始めるなら最初に迷うのが置き場所(レンタルサーバー)選びなので、僕が比較した話をこちらの記事にまとめてあります。よかったら、辞めたい夜の次の一歩にしてください。
ちなみに僕も一度、「辞める」の代わりに「いっそIT転職してしまおうか」と本気で調べた時期がありました。その結末は別の記事に書いていますが、結論だけ言うと、そちらも数字を並べて踏みとどまりました。僕はどうやら、勢いで人生を動かす前に、いったん数えるタイプの人間みたいです。
まとめ:辞めたい夜にやるのは、退職届より棚卸し
「会社を辞めたい」と本気で思った朝、僕がその夜にやったのは、退職届を書くことではなく、お金の棚卸しでした。生活費、貯金、本業の手取り、副業の現在地。たった4つの数字をノートに並べただけで、頭の中で巨大に膨らんでいた衝動が、等身大の現実に戻りました。
気持ちは、頭の中だと大きく見えます。でも数字にすると、ちゃんと測れるサイズになる。そして測れるものは、対策が立てられます。「今すぐ辞めたい」が「準備が整ったら辞める」に変わるだけで、心はずいぶん軽くなります。
もし今、辞めたい気持ちでいっぱいなら、退職届を出す前に、スマホのメモでいいので4つだけ数えてみてください。ひと月の生活費、すぐ使える貯金、本業の手取り、そして副業で今いくら稼げているか。10分で終わります。その10分が、勢いで踏み外す一歩を、止めてくれるかもしれません。
次回は、「いつか辞める」の準備のひとつとして、40代未経験からAIスキルを身につける現実的な順番について、僕が試してみた順序を書こうと思います。

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